自律訓練法は、自己暗示を通じて心身の安定を図る手法です。
このコラムでは、自律訓練法の基本原理や歴史的背景から始め、その効果や実践手順に至るまで丁寧に説明しています。リスクや注意点についても併せて記載していますので、ストレスや不安に悩む方、集中力低下や衝動的行動を改善したい方は、ぜひご確認ください。
自律訓練法とは
自律訓練法は1932年にドイツの精神科医であるシュルツ氏によって体系化された手法で、環境や決まった言葉などを用いて自己暗示を行い、精神や体調の安定を図るというものです。
シュルツ氏は1920年代に、科学的な催眠に誘導された方々がしばしば腕や脚の温かさを報告するという事実から、その感覚を自己暗示によって生じさせ、催眠状態を作るという手法を考案しました。
催眠状態によって自律神経のバランスを整える手法ですが、そもそも交感神経と副交感神経のバランスが崩れてしまうと
・不眠
・食欲不振
・便秘
・下痢
・疲れやすくなる
・頭痛
・やる気が出ない
・血圧上昇
など、様々な症状が起こってしまいます。
自律訓練法を実践することで身体をリラックス状態にすることができ、自律神経のバランスを整え、上記のような症状の改善を図ることが可能です。
自律訓練法は自律神経のバランスを回復させる基本的な治療法の1つとして、現在では精神科や心療内科で広く導入されています。
自律訓練法の効果
自律訓練法を実践することで
・疲労の回復
・イライラの軽減
・集中力の向上
・身体的・精神的苦痛の緩和
・向上心の増加
・不安の軽減
などの効果を得ることができます。
ここでは、それぞれの効果について詳しく解説していきます。
疲労の回復
自律神経のバランスが崩れている状態だと、不眠などの症状が現れてしまい中々身体を休めることができず、疲労感が蓄積しやすくなってしまいます。
自律訓練法を実践することで自律神経のバランスを整えることができ、不眠を解消して疲労を効果的に回復させることが可能です。
イライラの軽減
自律神経のバランスが崩れて交感神経優位の状態が続くと、身体や脳の緊張状態が続いてしまうためイライラしやすくなってしまいます。
自律訓練法を行うことで心身をリラックスさせることができ、イライラを軽減することが可能です。
衝動的行動の減少
自律神経のバランスが崩れていると、しばしば衝動的行動を起こしてしまうことがあります。
自律訓練法を実践することで、自己統制力(自分をコントロールする力)が向上して自分の行動や感情を効果的に管理できるようになり、衝動的行動の頻度や強度を減らせるようになります。
集中力の向上
自律神経が乱れていると心身共にストレスが溜まってしまうため、それが原因で集中力も低下してしまいます。
自律訓練法を行うことでストレスを緩和することができ、集中力を高めて仕事や勉強を効率良く行うことができます。
身体的・精神的苦痛の緩和
自律神経が乱れている状態だと、様々な症状によって身体の各所に不調を感じることがあります。
また、精神的にもストレスを感じやすくなり、身体的にも精神的にも辛い日々が続きます。
自律訓練法で自律神経を改善することで、そうした身体的・精神的苦痛を改善することが可能です。
向上心の増加
自律神経が乱れていると、ストレスによってイライラしてしまうだけではなく、何事にもやる気が湧かなくなってしまうこともあります。
自律訓練法によって自律神経のバランスを整えることで、向上心を高めて様々な事柄に意欲的に取り組むことができるようになります。
不安の軽減
自律神経のバランスが乱れてしまうと、漠然とした不安感に苛まれてしまうことも少なくありません。
自律訓練法を実践して自律神経のバランスを正すことで、不安感を軽減して前向きに日々の生活を送ることができます。
自律訓練法の手順
自律訓練法を実践する場合、まずは周囲の環境などを整えてリラックスできる状況を作り出すことが重要です。
具体的には
・事前にトイレを済ませて、尿意や便意が出ないようにする
・締め付けなどがきつくない、ゆとりのある服装にする
・髪を結ばない
・騒音などが気にならない静かな環境を作る
・部屋を暑すぎず寒すぎないちょうど良い温度に調整する・時間的な余裕を持つ(スケジュールがたて込んでいる時にやらない)
・過度な空腹感、あるいは満腹感を感じないよう食事量を調整する
などが挙げられます。
自律訓練法はリラックスすることが重要ですので、様々な要因に配慮して可能な限り落ち着くことができる環境を作りましょう。
自律訓練法の公式とは
自律訓練法には「7つの公式」というものが存在し、1つ1つの公式を順番にこなしていくことで自己暗示を行っていきます。
それぞれの公式は
・背景公式「気持ちが落ち着いている」
・第一公式「手足が重たい」
・第二公式「手足が温かい」
・第三公式「心臓が静かに打っている」
・第四公式「呼吸が楽になる」
・第五公式「お腹が温かい」
・第六公式「額が涼しい」
となっており、次項にて詳しく解説していきます。
また、自律訓練法を行った後は必ず消去動作を行いましょう。
消去動作というのはリラックス状態から普段の覚醒状態に戻るための軽い運動のことです。
消去動作は
1:両手の開閉運動
2:両肘の屈伸
3:背伸び
4:開眼
という手順で行うのがいいでしょう。
参考:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbf/43/2/43_71/_pdf
自律訓練法のやり方
それでは、実際に自律訓練法はどうやって行えばいいのでしょうか?先にご紹介した7つの公式について、それぞれ詳しく解説していきます。
※第二公式までは自主的に行っても問題ありませんが、第三公式以降は持病・体質などによっては副作用が出る可能性があるので、医師の指導の下で行うようにしてください。
背景公式「気持ちが落ち着いている」
最初の背景公式では、まずゆったりとした姿勢で深呼吸をし、気持ちを落ち着けていきます。
そして、気持ちが落ち着いてきたら目を閉じる、あるいは半目の状態にして、心の中で「気持ちが落ち着いている」と数回唱えましょう。
第一公式「手足が重たい」
背景公式で十分に気持ちを落ち着けたら第一公式に移ります。
第一公式では自分の手足の重さを感じるように意識していきます。
1:右手
2:左手
3:右足
4:左足
という順番で重さを意識していきましょう。
また、重さを意識する際は心の中で「右手が重たい」というように、重さを感じたい部位を意識した言葉を唱えるようにしましょう。
第二公式「手足が温かい」
第二公式では、手足の温かさを意識します。
第一公式の時のように
1:右手
2:左手
3:右足
4:左足
と順番に意識していくのがいいでしょう。
また、心の中で「右手が温かい」というように、意識した言葉を唱えるのも忘れないようにしましょう。
第三公式「心臓が静かに打っている」
第三公式では心臓の鼓動を意識します。
心臓の鼓動を意識して感じながら、心の中で「心臓が静かに打っている」とゆっくり唱えましょう。
第四公式「呼吸が楽になる」
第四公式では呼吸を意識していきます。
ゆっくりと腹式呼吸を行いながら、心の中で「呼吸が楽になる」と唱えていきましょう。
第五公式「お腹が温かい」
第五公式ではお腹の温かさを意識していきます。
お腹、あるいはその中にある胃などに意識を向けつつ、心の中で「お腹が温かい」とゆっくり唱えていきましょう。
第六公式「額が涼しい」
最後の第六公式では額に意識を向けていきます。
意識を額に集中させつつ、心の中で「額が涼しい」とゆっくり、繰り返し唱えていきましょう。
自律訓練法は第六公式までで終了ですが、最後に必ず前述の消去動作を行ってください。
自律訓練法の注意点
「自律訓練法の効果」でご紹介した通り、自律訓練法には様々なメリットがあります。
しかし、人によってはメリットだけではなく悪影響が出てしまう可能性があります。そのため、以下では自律訓練法を行う際の注意点についてご紹介していきます。
副作用につながる可能性がある
自律訓練法は実践することで心身の緊張が解れるため、血流が増える・筋肉が緩む・内臓の働きが活発化するといった変化も起こります。
しかし、これは良い事ばかりではありません。例えば
・心臓に疾患がある方
・糖尿病の方
・頭痛に関する持病がある方
・脳波に異常がある方
・妄想が出る精神疾患を持っている方
上記のような症状がある方々の場合、副作用が出たり精神状態が悪化したりしてしまう危険性があります。
そのため、自律訓練法は実践する前に必ず医師に相談するようにしましょう。
まとめ
自律訓練法は、心身のバランスを整える手法として非常に効果的です。正しい手順で実践することで、疲労の回復やイライラの軽減、集中力の向上などの効果が期待できます。
しかし、副作用や精神状態悪化の可能性もあるため、医師の指導の下で行うことが重要です。自律訓練法の公式や手順をしっかり把握し、無理をせずに取り組むことが大切でしょう。
自分自身の心身の健康を守りながら、より良い生活を送るために自律訓練法を活用してみてください。
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